stormy97’s diary

あわよくば人に勧めたい、作品の紹介と感想

私を離さないで

金曜ドラマ「私を離さないで」の全話通しての感想と、小説版の感想です。

この作品は物語や世界観の面白く、どうにもならない中、それでも人々が生きていく様が好きです。

 

【以下ネタバレあり】
自分たちのルール、言葉で表せないけれどずっと正しく物事を捉えて想像力のある、人間関係も持って、色々考えている子供たち。

 

 

この話で書かれる主人公らの理不尽は、施設だけが元凶なのだと思ってた。
彼らは山奥に隔離されてるし、そこから出られて警察に訴えられたりしたら都合が悪いのだと。
先生がショックを受けてたのもそう思った一因だ(…これ後の結論踏まえたら、なぜショックを受けていたのか謎である)。
でも違うんだな。完全に「ドナー」と「そうでない者」が区別されて、それが常識になっているようにむしろみんな無関心。警察こそ臓器移植に協力的。

施設が考えを変えたところで「どうにもならない」環境なのだ。


それを知ると、洗脳じみて胡散臭く感じる、陽光が「あなた達は天使だ。」と教え込んでいた事の正しさが理解できてしまう。
「私達は天使だから」が唯一の救いになるなんて…。

 

美和の最後が辛い。
嫌な子だと思ってたはずが後半になるにつれ好きになる。「とても可愛い事をする」…;;
車内で見た指を絡めている様を作品にした美和。芸術はその人の姿を映し出すというのは本当にわかる。
個人的にこの作品は清水玲子の『輝夜姫』を彷彿とさせ、さらに美和はその登場人物のまゆを思い出す子なのだが、最後になってますますそれが強まる。「恭子になりたかった」彼女も恭子を一番愛して依存していた。
直前で震えだす事から伝わる死の恐怖が、リアルでゾッとする。恭子の名前を叫びながら連れてかれる様が本当に辛い。
臓器を複数摘出した場合、すぐに生命活動って停止しちゃうものなのか…期待したかったのもあるけど、出てきた時にはもう命がないっていうのがなかなかショックだ。

 

とある別の作品が「終わりが決まってる人生をどう生きるか」がテーマだと言われていた。この作品も、まさにそのような話だった。

 


同名の原作も読みました。カズオイシグロさん著。
『私を離さないで』は曲の名前だったんですね。


キャシーの目線で淡々と思い出を遡るように語られる原作。全て回想のはずなのに、混乱も退屈もしないのがすごい。
それから、ドラマ版と同様、子供時代の描き方がうまくて圧倒される。「子供の感性」というか、表現手段を持たない子供が、気づいている事の幅が、すごくリアルで、これ大人が描いてんだ…と驚く。

 

主人公ら3人は、ドラマ・映画版の3人より良い、というかはるかに安定している関係に見えた。
例えばドラマでのキャシー(恭子)とルース(美和)。

2回目になってしまいますが、彼女らは輝夜姫の晶とまゆを彷彿させたくらいなんですよね。根には愛情があるのに、救われない方向に拗らせている。(映画は逆にルースの描写が少なくて、「話の展開上必要なワガママな幼なじみ」止まりで、視聴者としては好きになれる余裕がなかった気が)
そんな人間関係もあってか、映像版のようなドラマチックさが少ないように思う。それがかえってリアルな感覚を引き立てる。
「悪口の皮を被った愛情」が言い合える3人。現実でも体験するこの感覚、この表現は言い得て妙だなと。

 

p105「何か大事なものをなくしてさ、探しても探しても見つからない。でも、絶望する必要はなかったわけよ。だって、いつも一縷の望みがあったんだもの。いつか大人になって、国中を自由に動き回れるようになったら、ノーフォークに行くぞ。あそこなら必ず見つかる、って……」
わかる!この感覚。
愛美がいないのもそれかもしれないけどドラマほど提供を特別なものとは思っていない印象を受けた。倫理どうこうという意味ではなく、彼らにとっては経験上それが「当たり前」の生き方なんだなという。
トミーがくだらない話をふる最後も「諦める」というには違った穏やかさがあって、逆に悲しくなった。

 

最後のノーフォークのシーンが印象的だ。
4度目の提供者は特別な扱いを受ける、というのが、さらっと描かれてる割に、一番怖い。

 

 

あとがきに、この小説は予備知識が少ないまま読んだ方が良い、と書いてあったので次にこの方の作品を見る時こそは真っ先に小説を読んでみようかとも思う。

 

 

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