stormy97’s diary

あわよくば人に勧めたい、作品の紹介と感想

小説『イタチ真伝』 感想

小説イタチ真伝は、イタチに焦点を当てたNARUTOのスピンオフで、光明篇と暗夜篇の二冊構成。


比較的人が死ぬ作品に慣れてる周りの方達が、口々に精神にくると言っているこの本。怖すぎた。読む前はそれはもう胃が痛かった。

読後の感想はですね…月読を食らったようでした、ええ

 

ねえこれ天下のジャンプ?友情努力勝利のジャンプ?対象年齢12歳から??まじで?

 

なまじ文が上手いだけにぐっさぐっさ刺さる重さがあるんですよね。

 

重いけれど、文章表現、演出、心理描写の巧みさ、登場人物の「らしさ」、本編との関連…どこをとっても傑作で、おまけとしてではなく一つの小説として、好きな作品になりました。

【以下ネタバレ感想。長いです。】

一言でまとめると、「泣く」

 

雑多な感想

・光明篇は、確かに聞いた通り本編よりは穏やかなんだけど、知ってる結末に真っ直ぐ進んでしまってるのをどうしても感じるので、やだやだやだ…

まだそこまで、酷い事は起こっていない状況が描かれてるのすら切ないですね。
この時点ではまだ何も決まっておらず、背負っておらず、明るい未来は見えているのだなって。

 

・章タイトルが抽象的でありながら的確でとても好き。

 

・ダンゾウが幼いイタチにトロッコ問題的な質問を投げかける。

7歳の子供にこれを解かせるんじゃねえよ〜!!!
回答がまた今後を暗示しているようでもう…。

・イタチを通して提起されている問題には、「目的のために他人を犠牲にしないとならないならどうするべきか?」がある気がする。
「目的のために自分を犠牲にしないと〜」は時々見るけれど、それでは「足りない」場合。
これは、『これからの正義の話をしよう』で議論されていた。この選択は自分を犠牲にすれば他人を救える時よりも、時に難しい。

 

・p90 言葉がでない。

 

・子供時代に誰より真剣に平和を実現したいと言っていた子が、無感情に仕事で人を手にかけるし、将来一族を皆殺しにする…それも変わらぬ目的の為なんだよな。

 

・イタチがまだダンゾウ相手にすら希望を持ってるのがつらいつらいつらい。
あれでもまだ幼いんだろうなぁ。それを信じられちゃうくらいには。

ダンゾウ〜何が救うためだよ〜ぺてん師め…
(この後の事を思うと)「お前にかかってる」とか言うなよ!何もひとりの責任じゃないのだ。刷り込まないでほしい。

・彼だけでなく、上層部への不信感が募りますね…
色んな人に理解があり、最後も里のため戦って死んだヒルゼンを格好いいと思ってきたんだけど、真伝読んでから何を信じるべきなのか見失ってしまった…。

 

・シスイを失ったイタチの感情描写がこう、単純に号泣とかでなく感情の渇きなのが、妙にリアルで胸が詰まる。

・前夜の崖のシーンはひりひりするような描写。「これが最良の一手だ」

・ゴズ、メズって名前、地獄への案内人なんですよね……小ネタがいちいち爆弾だ💥

・両親のくだりがフガクの思いをはじめ全体にしんどい。

・事件後に、シンコのように里内にも理解してくれる人がいてくれた事は良かったな…😢

 

 

腑に落ちた点3つ

真伝を読んで、納得もできた部分も多かった。
ノベライズというと、本編との兼ね合いが気になるけれど、真伝は本編の補完として読むにも良い作品だと思います。


①「オレは失敗した」について
本編で、全て自分の筋書き通りにして死んでいったイタチが、「自分は失敗した」と言ってた事が不思議だった。そんな事ない!とサスケに同意したいのが正直なところ。
でも真伝を読んで、少し言葉の意味がわかった気がする。
あの夜の決断をした時点で、イタチは挫折や敗北と感じていたようだ。とすると彼にとっての「失敗」という言葉は、シスイとの約束を果たせなかったことから、ずっと係ってきたのかもしれない。

②"前向き"に見えるイタチ
光明篇の描写から、イタチは、ものすごく頭がいいのだと知った。

具体的には、中忍試験を受けられないとき、それを悲観せず、他者をずるいと思わなかったところなど。

理にかなってるんですよね。人を妬んでも、自分の目的には何一つ響かないから。

つまり、感情など余計なものは計算に入れず、目的の為だけに動けているのだ。

ゲーム論でいうところの支配戦略を常に選べる人。これを頭でわかっていても、実行できる人はきっとそういないだろう。

神童だと思った。

これが生涯変わらなかったとしたら、その性質ゆえ、常に彼は最善を選んでいたはずで、だからこそあんな地獄を生きているのに後ろ向きには見えないのだろう。常に選びうる限りで、良いものを追っているのだから。

 

③火影について語ったイタチ

本編でナルトにイタチが火影について語っていましたね。

誰より里を思う実力者の先輩ポジションだから、たしかに適任。ただ急にイタチがその話を出すのは少しメタかなと思っていた。

 

真伝ではイタチも火影を目指していた事が判明。実体験に基づいて喋っていたと思うと、しっくりきた。

後から、この設定はファンからは賛否あったと知ったけれど、私は妥当だと思う。

 

それにしても火影を目指した若者があの未来を背負うというのは皮肉で切ないですね;;

 

ただ、火影を目指していたのに正反対とも言える立場になることを受け入れるのも、変わらず目的を追うためであったあたり、この設定が彼の手段や形式にこだわらず最善を尽くす人間性を際立たせていて好きです。

 

ナルト相手のシーンからは、イタチが視野が広くて情ある人だとわかるのがまたつらい。
そして「火影になるから忘れないでくれ」というナルトの宣言を彼が聞いた事も、知ると、本編でのナルトとの場面の重さが違って見えますね…。
きっとこの会話はその後もずっと覚えていたのだろうし、再びナルトの前に現れるまで、状況は変わったけれど、見守ってたのだろうな。

 


さて、話変わってイタチ周りの関係性について。

どの関係性も素敵なんだけど、総当たりで切ないから逃げ場がありません💢💢💢

父&母はあの通り、イズミとは悲恋、弟は彼を殺す相手、そしてシスイはいなくなる…しなんなら彼もその手で、だし、鬼鮫は……鬼鮫……鬼鮫か…?癒しをくれるのは!

更に話がそれるけれど、ギャグ漫画の『写輪眼伝』を読んでいると、暁での生活が、(監視の目的でいたとはいえ)彼に少しでも平和な時間を作ってくれてたのじゃないかなと期待してしまいますね。好戦的な人も多いので考え方は異なっただろうが、良い関係も少しはあったんじゃないだろうか。

真伝はどこまでも切ないので、鎮痛剤のように併せて読むことをお勧めします写輪眼伝。私は心底あって良かったと思いました…😇

 

以下、真伝で思うところのあった各関係について書きます。

 

シスイとイタチ

盟友と呼ぶのに相応しいこの二人。

上手くいかない世界で出会った、似たように世界を見られる良き理解者、そして、爽やかな尊敬できるお兄ちゃんとその人に唯一心を開いた天才肌タイプ。素敵だ。

秘密の鈴木と薪や、屍者の帝国のフライデーとワトソンを思い出しました(この後の展開も含めて。


こういう時、爽やか君の方が先に逝くのは本当になんでなんだろうね…………その人の存在は確かに明るい光だったはずなのに、共に追っていた理想もその人の死も、残された者の後の人生で変わらぬ後押しとなると共に重い鎖として背負うことになるのほんともう。

 

お前がいたら信じられた」;;;

 

この里を、うちはの名を守ってくれ」は、「すごいよな薪、やりがいのある仕事だよ」と笑った鈴木さんに似た切なさだし、21gの証明のようである。こういう約束に弱い。


頑張ってる人が先に逝ってしまった相手と会いたいと願うとき、例え負い目があっても多くは「想像の中のあなたは自分がどうなろうと味方で、変わらず笑う」ものだろうけれど、
イタチがシスイに会ったらシスイにとって許せない状況(=一族が犠牲に)がイタチによって作られているというのが、どこまでもシビアな所。

一方的な後悔なら、兄貴分の包容力が勝ちそうなものだけれど、望まないことをしてしまった負い目があっては、その幻影にすら寄りかかれない。

 

p190、イタチはシスイの策が確実だとは思っていなかったようだけど、それでも重い決断にあたって答えを求めるとか、想像していた以上にイタチは彼を慕っていたよ…。

友の魂は語りかけてくれていいし神は救いの手を差し伸べるべきだ!!!!!ちくしょうめ

子供の涙でないと贖えない神など許さない、そんな世界は認めない」神の沈黙へのイワンカラマーゾフの言葉がこれほど大事なのだと感じた瞬間はありません。実はそれで最近沈黙を読みました。

  →沈黙感想 『沈黙』感想 - stormy97’s diary

 

イタチと両親

本編読んでからイタチをべったべたに甘やかしたい願望があるんですけど、真伝読むに、彼にはどう考えても甘えられる人がいない問題。

彼自身も独白でもっと甘えておけば良かったと言っていたが、それができる状況があったか?と言われると微妙だと思う。

 

両親も、最終的に子を思ってない訳ではないのはわかるんだけど、フガクは一族と自意識の中に居たし、母ミコトも、意見の異なる息子に怒りをぶつけていた。

彼女は何だかんだ子の心の機微に気づいていて一番に寄り添ってくれたはずだと期待していたので(その気遣いが通じたかどうかは別として)、ここは割とショックだったな……。
一族にこだわる人である前に、「父親」と「母親」であることを自分は期待していたんだなと知る。


あの夜の場面は、恨めしいほどに一文一文の演出が深い。

 

・今まで「父上」呼びをしていたイタチが、本人を前にして本当に殺す直前になって無意識に、幼い頃の「父さん」呼びに戻っていたところ。

ここが最も抉られたシーンかも。

 

・サスケに来るなと叫んだのは、刺され絶命したと思われたフガクだったところ。
イタチが、これまではしなかったように父の背に額をもたれかけさせている時、おそらくフガクにはまだ意識がある。

・手を掛けたのは自らであるが

・死にゆく存在に甘えるように触れる
・あの甘えを知らないイタチが
・あの確執のあった父に
・そしてそれを、息子の未来を奪ったと後悔している、息子と険悪な仲だと感じてたかもしれない、かつ息子は甘えそうにないと思っているだろう父が死に際に知る。

…全てがやばい。

 


うちは一族は似ている

・父フガクが死に際に言う事は、転生したイタチが弟に言った事と同じなんだよな…「もっとお前を信じてやれば良かった」と。

 

・p214、シスイとイタチの関係も、後のイタチとサスケの関係に似ているように思う。
兄貴分を殺した日から、一族(里)に失望するようになる弟分。
彼が大切だったからこそ、他でもない彼の死によって、彼の「一族(里)を守りたい」という立場と対立する事になる。

 

 
イタチとイズミ

イタチのガールフレンド、イズミはすごくいい子ですよね(泣)

光明篇でのイタチと彼女の関係にはすごく子どもらしい純粋な好意が見えるようで、微笑ましかった。
彼女の最期はうっすらと知っていて読んだのですが…幸せな夢を見せて殺す、月読らしい月読。あまりに綺麗で泣ける。

彼女は文字通り幻術で殺されたんですね。幻術を麻酔にして刀で…かと思っていた。月読はこんな使い方もできるんだ…。


なんでイズミの月読世界が現実にならなかったかなぁ……。

 

月読は、術者がその光景をリアルにイメージして使うのだという時点で無理ですね…。
これから殺すあの状況で、あの幸せな生涯を思い描いた訳でしょう。

 

関連して、作中数度サスケにあの夜を見せているイタチだけど彼はうちは抹殺の場面を何回体験しているのだ……

 


イタチの人間味に関するもろもろ

真伝で判明したイタチが置かれていた状況は、本編でわかるものより悲惨だった。
けれど読み手としては、真伝読んだ後の方が少しだけ気が楽になった。

理由は、真伝ではイタチが怒りや悲しみをしっかり出してくれていたため。

ちゃんと怒って、泣いて、復讐してくれた。そして感情は、麻痺すらしていたのだと知った。

 

本編の彼は本当に感情を出すシーンが少なく、常に正気であり、超人的に見えていた。

例えばうちはの三人を倒したシーン。あの真意も本編では謎で、サスケにわざとあの姿を見せたのだ、とか警告のつもりの演技だ、とか色々想像したけれど、あれはちゃんと感情的な反応だったんだな。


彼は境遇が理不尽すぎる分、物分かりが良いほど見ていて辛いので、ただ抱え込まないでくれてまだ良かったし、

しようと思えば感情をコントロールできてしまう人だと思うので、人間らしいそれを全て自力で封じ込めるよりは、意識する前に麻痺してくれていた方がまだましだ…。

 

 

 

「つらい」が主の感想になりましたが、

進む道を決め、最後の頁で笑みを浮かべたイタチは美しかった。
優しく平和を望む少年と、闇の色気を持つ冷酷な悪役というイメージが融和した瞬間だ。


p283「希望は失われても夢は残っている

どちらも奪われてはいなかった…!

彼の生き様は、自分の理想を裏切ることになっても、そこで終わるのではなく、状況に応じた形で、目的の方を向き続ける事はできると教えてくれますね。


そして、イタチの意図を思うと、「唯一の生き残り」のサスケが死にたがりにならなかった事もまた、救いだと思える。

 

 

光明」の意味は、「暗闇を照らす明るい光、将来への明るい見通しや希望」だそうですね。
結末を知っていてこの副題をつけるのは、残酷が過ぎやしないか。

そして文字通りの暗夜

「真伝篇」はもう一冊あるようです。それがサスケ真伝「来光篇

く〜〜!ネーミング…!兄弟が揃って完成するような物語なのだろうか……?

 

ずっとイタチにとっての希望だった弟を通して、光明篇が報われる事を願いつつ、近いうちに読みたい。

 

 

 

 

 

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