stormy97’s diary

あわよくば人に勧めたい、作品の紹介と感想

舞台『死神の精度』が良かった

2018年8月31日、19時〜21時5分頃、あうるすぽっとにて観劇した、「死神の精度」の感想です。

伊坂幸太郎原作。

自分は彼の作品のファンなのですが、死神の精度に触れるのは久しぶり。いやー懐かしかった…!!

思いついた順にぽつぽつと感想です。


以下ネタバレ注意。


死神の精度らしく、ミュージック!!の演出が面白い!
音量が場面によって変わり、時に会場を飲み込む程に大きくなったりと、情景描写の役割をしていた。

死神の精度は短編集ですが、その中でもヤクザの藤田とその子分阿久津の話をピックアップした舞台でした。好きな話なので嬉しい。

 

どの登場人物も演技がとても良く、藤田さんはいい男だし、阿久津は見ているほうが絆される憎めない男、そういうのがバシバシ伝わってくる。
台詞回しや間の取り方の感じ、声のトーン、掛け合いのテンポから、すごく伊坂らしさを感じました。これぞ伊坂節!


前述の演出含め、私がこれまで観た映像化作品の中で、一番伊坂らしさを強く感じた作品かもしれません。

 

藤田の喋り方(特に初登場時)、すごくヤの人「らしい」。
阿久津は単純で、基本擬音で喋るんだけど、言いたい事はちゃんとわかるし子供じみた必死さからは、感情がダイレクトに伝わってきてグッとくる…。「わっかんねぇんだよ!」の言葉は本当に捉えあぐねているんだろうなぁ。。。

 

藤田と阿久津の関係性がすごく丁寧に書かれていた。敵対関係やあらすじはぼんやり覚えていたけれど、彼らの複雑な関係はこの舞台を観て気づき、そうか、こんな話だったのか、と。
いい関係性ですね。わりとドライでいて愛憎混じりで親子のようでもある所が、岩西と蟬(伊坂作品の登場人物。グラスホッパー『魔王JR』に登場)の関係とも被る。
あと脱線するんだけど組の会計役が同じ組で処分される事になり友人に殺され息子だけ見逃されるのとか91を思い出す。それに阿久津が慕う育て親藤田は阿久津の両親を殺した仇で、藤田はそれを話したいけど阿久津の子供らしい顔を見てからは言えなくなってそのまま来ている、いっそ殺されたい。そんな藤田に反し当の阿久津は仇と知っており、復讐したいと考えつつも藤田には死んでほしくない、そういう複雑な感情を抱いている、それだけでやばいのに、藤田が両親を殺ったのはやむを得ない事情、それも息子残すことも関係ありで、彼ら自身に頼まれたからだと聞いて私は死んだ。
いやーーーー、もう一度読み返さないとね。沼落ちしてたら察して下さい。


そして千葉は記憶の数倍天然だった。行動の天然加減がどうにも可愛い。
気絶した阿久津を足元に座らせて、頭かき回して遊んでみたり。水槽引っ掻き回してみたり、入れ墨を物珍しそーに間近で眺め、触ってみたり。痛くないのに痛いフリをするシーン好きだなぁ。
無傷で「お前が拉致してきたんだ!」とか無茶な言い分してる時もこの人堂々としてるから周りは押されるよなぁ。笑

彼のミュージックへの食いつきようはすごい。もはや叫んでいる。し、距離が近い。ノリ方はもう全身で表していて、ちょっと舞台蜜柑を思い出させる。笑

 

同僚のお喋りな死神役は、以前あった魔王JRの舞台で岩西を演じられてた細見さんだったのですが、なんかね、ハットを被ったシルエットといい、ヤクザの中に紛れる格好といい、全体的に岩西っぽいんですよ!懐かしい〜…!
彼と千葉の掛け合いはテンポが良くて楽しい。
彼の話を聞かずにヘッドホンをつけようとする千葉さん。話を聞け!とヘッドホンとられてもめげずに5,6回は奪い返してる千葉さん。千葉さんが音楽を聴くとリンクしてこっちの聴覚もシャットアウトされるので、無音でパクパク喋り続ける同僚がなんともシュール。

全体に笑いどころが多くて客席から度々笑いが起こる感じでした。

 

雨は煙で表現されていた他に、本物の水も使われていた。
千葉の独白が予告した通り、扉を叩く音に続いて、雨の中現れる藤田が格好いいのなんの。
これまで開かなかった壁が大きく開けて、光と雨の中で大写しになる藤田の刀を持つ姿は、決まっていて圧巻でした。最近の舞台は水が降るのか。
待ってましたー!!をやってくれる伊坂ワールドの楽しさを再認識しましたね。

 

最後に雨が止み日が指すところ。舞台上なんですけど、本当に透き通った青空と、眩しい陽の光が見えた。逆光の加減も、外で見るリアルなそれそのもの。
演出ってすごい。

 

楽しいし、切ないし、伊坂作品の魅力を再認識させられるし、最後にはそれこそ晴れ渡った空を見た時のような爽快な感動の残る素敵な舞台でした。

 

 

 

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