stormy97’s diary

あわよくば人に勧めたい、作品の紹介と感想

『ハーモニー』感想 2015

2015年の、初見の感想です(追記2018.12.7

 

伊藤計劃さんの『ハーモニー』

 

生の定義近未来の倫理観だとか、管理社会だとか、そういったテーマが好きな方にはめちゃくちゃ読んでほしいです。
これほど完成度の高い、SFには初めて出会いました。
個人的には虐殺器官より難しかった。

 

感想を書くにあたって、思い返そうとしてみたのですが、えっと…すごすぎて何がすごいのかもわかんないよ!!!
丁寧に逆算していけば、世の大概のものの仕組みは理解できると思っていたのですが、この人の本は完全には読み解けない。意味不明という訳ではなくて、どこがポイントです、と要約ができないんですよね…。
ディストピアユートピアという言葉から自分が想像していたものなんて、とてもこの作品には及びませんでした。

 

というわけで、まとまった文にできる気は全くしないのですが、少しずつ思った事を書いてみます。

 

主に小説の感想、最後に少しだけ映画版の話があります。

【以下ネタバレあり】

 

小説
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中盤までは、htmlを模して書かれている事や文末の……。が気になって読みづらかったのですが、途中からは純粋に設定に世界に物語に、のめり込みました。

それに、htmlに関しては後々その重要さが明らかになります。


この本は、一見3人の少女が主人公に思えるのですが…確かに語り手はトァンで、ミァハはキーパーソンに違いないのですが、主人公は世界なのだろうな。
ミァハの心変わりがあまり細かく書かれていないのも、そのせいかと思います。


大災禍の後の、優しい世界 のように、反動で極端にふれる例が何度か出てきたけど、ミァハもある意味そうだったのではないか。

 

虐殺器官の感想で、「咄嗟の判断もコントロールするには身体の中から変える必要がある」と書いたけど、ハーモニーはそうなっている世界だ。

 

そうすれば幸せになるんじゃない?と深く考えたことのなかった、「統治単位がみんなになった世界」に切り込む作品。

 

死者の主観映像は『秘密』MRIを思い出しました。ハーモニーでは秘密の映像と違って感情が含まれず、無機質だけど。

コンタクトレンズというのが現実的だ。ひょっとしたらではなく、実際つくられるならこの形だろうというような。


話やその収まり方には1984年』を彷彿としたけれど、やはりあっちの方がまだ人間味がある。

 

鈍臭く書かれていたキアンがあまりにもしっかりしている。

 

トァンの 精神は肉体を生き延びさせるための単なる機能 には同意。

 

糖尿病は生き残るための術。そうだったのか。
種の存続のためにあるとするなら、説得力がある。
後に知ったけれど、こういうトレードオフは色々なものが存在しているよう。有名なのだと、病気になる代わりにマラリアには強くなる鎌状赤血球貧血症とか。

長期的な世界、美しい永遠にも憧れるが、私はやっぱり動物的な、不明瞭でもその場の意識を優先させる単なる機能が心地よく感じる。

目の前の物を過大評価する性質は良いと思う。自然に淘汰されるまでは、人為的には消されて欲しくない。

意識なんか不幸になるだけ、とミァハは言っているが、幸せ不幸うんぬんも感情なのではないか。

クライマックスの静かなドラマチックさはとても印象的でした。

そして、351ページから鳥肌が止まらなくなる。

<null>わたし</null> には心底ゾッとした。怖い。

最後の章は未来の行く末を実際に覗いてしまったかのようで、読んでいて動悸がしたくらいに怖かったです。

ハーモニーの世界は、よくよく考えてみれば突飛な部分もあるけれど、論理的な文章の説得力に、本当にそうなるのではないか、と思えてしまう。

さて、文中に何度も出てきたHTMLタグですが、「意識が無くなった世界で文脈が要求する感情を作り出すためのテクスチャ」だったんですね。英語の弱い私にはなんの感情かわかんなかったりもしたんだけど(
作品にこれほど深く繋がっていたとは。はあ……鳥肌(~_~;)

 

 

p134 限りなく死に近づいてゆくことを進歩と呼ぶのよ。

 

p170 意志ってのは、ひとつのまとまった存在じゃなく、多くの欲求がわめいている状態なんだ。

 

報酬系の諸要素をいじることで、人間の意志を制御することが可能だと踏んだ
意志の制御 これだけ不気味で大それたことを、ざっくりと、あっけらかんといってしまえるのが科学の魅力でもある

 

p327 かつては宗教が、わたしがわたしであることを保証していたのだろう。すべては神が用意されたものなのだから、人間がそれに口を挟む必要はない。けれど、宗教のそのような機能は今日では完全に失われてしまった。喜怒哀楽、脳で起こるすべての現象が、その時々で人類が置かれた環境において、生存上有利になる特性だったから付加されてきた「だけだ」ということになれば、多くの倫理はその絶対的な根拠を失う。絶対的であることをやめた倫理ー相対的な倫理ーは脆い。歴史がそれを証明している。

 

進化上必要なものだけが残る。

 

 

〈新しく知った言葉メモ〉

おざなり:適当に表面上だけ
なおざり :何もしない
侃々諤々(かんかんがくがく) :正しいと思った事を堂々と主張するさま、盛んに議論すること。

マイク持った宇宙人だなんて言われてたこの漢字の使い道、初めて知った 笑

 

 

映画版
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作画がCGというか、機械っぽいな
ズレがなく、なめらか
そこに私は少々酔ったのですが笑、デジタル記録の再生という作品の性質を見せるのが意図だとしたら、ぴったりなのかもしれない。

 

パンフについて
臓器のように見えた、体内=安心感?のためかなどと考えたんですが、→実際デザインは、生物を意識し、それらの模様のパターン、ボロノイ図というものが用いられていたらしい。

 

この3人の3つの色がまざって映画『ハーモニー』の「白」になっていく。

 

伊藤計劃作品の魅力というのは、同時にいろんな希望と絶望が語られているところです。セリフの中でいきなりテーマがぽんと示されたり、
突然諦めを感じさせるようなセンテンスがドンと入ってきたり。

↑これはまさにこれ!!と思った