舞台「罪と罰」の感想
19年1月30日、罪と罰の舞台を滑り込みで観てきました…!
ドストエフスキーの狂気的で生命力に満ちていて激しい魅力に引きずられてこの記事のテンションもそんな感じです。
(以下勢いで書いた感想です ネタバレあり)
バッタバッタ倒れるラスコーリニコフ。
小説でもよく卒倒してたけど舞台はそれ以上に倒れるのですこし笑えてくる。
15回くらいは倒れてた気がする。
小説は彼目線で読んでいるので確信はもてなかったけれど、こうして外から見ると明らかにラスコーリニコフの言動は異常。
こらバレるわ。むしろよく終盤までバレなかったなと思う。
彼は常にうわ言を言ったり、激昂したり…正気と狂気の淵にいるのだけど、その演出がすごかった。
観ている方まで幻覚の中にいるように錯覚させられる。
今まで喋っていた者が突然彼を糾弾し始めたり、亡霊が一斉に向かってきたり。
嫌に響く声と赤いライト。
光と音の質が切り替わってパッと目が醒めるような演出も秀逸。
特徴的だと思ったのは、モブの描き方。ラスコーリニコフが老婆を殴り倒す時に一緒にその動作をしたり、凄惨な場面で悲鳴をあげて逃げ惑ったり。
そういう、実際にはそこに人はいない場面でも舞台装置として動いていた。
この騒がしさからは、ラスコーリニコフが犯行に至った一因の、ロシアの当時の状況の悲惨さや息苦しい空気感を感じられた。
人には新鮮な空気が必要なんですね。ここにはそれが無いのだと。
当時の悲惨さという面で、カテリーナと子供達も良かった。
ラスコーリニコフとはまた違った形で、環境と病気のせいで少しおかしくなってしまっている人というのが、妙な剽軽さや過激さから伝わってくる怪演。
原作のカテリーナは喚き立てるような姿が見ていて辛くて好きではなかったのだけど、そのさじ加減が絶妙だった舞台版の彼女は好きになれたな。
夫マルメラードフもイメージぴったり。
本来、もう喋らず動かない死んだ人の様子が描かれるのが舞台の良いところだな〜と再確認したシーンがあって。
生き絶えた彼が舞台上から去る時、ソーニャとハグをしてから行くのだ…😭
核心を突かれた時の怯えたか細い声(露骨!バレるぞ!)、涙声、激昂する声。落ち着きのない挙動。また捲し立てる様も圧巻でこれぞドストエフスキーだ!!
ありがとうと言いたくなった。ちょっとドラマカラマーゾフの勲も彷彿とする演技でした。
彼の顔は常に汗にびっしょり濡れていて病的だった。あんなのどうやって再現しているのだろう。
あと見間違えで無ければ終盤までずっと血塗れの手だった…?演出かな。
熱に浮かされたような登場人物たち。みんな狂気に満ち満ちていて、そうでありながら考えを持っている。
また、突然椅子を蹴り倒したりマットレスを遠くにぶん投げたり舞台装置の椅子を片すかと思いきややはり舞台の奥にぶん投げたり…どんがらがっしゃんの連続。舞台でですよ?
ドストエフスキーキャラはこうでなくっちゃ!という意味のわからない激しさがありました。
こういうところが大好きだ。
はっとするような眩しい美しさのある場面もありました。
例えばラスコーリニコフが十字を掲げる場面や、最後に背後の壁が拓けて眩しい明かりが差し込む場面。
背後の壁にはロシア語で何かが書かれてた。何が書かれてたんだろう。もしかしてそれが開けることに何か意味があったのだろうか。
最後のソーニャがラスコーリニコフにパンを分けるシーンは幻想的だった。
弁証法の代わりに生活が出てきた場面かな。
あとパン=聖体?と思うと、神をラスコーリニコフが受け入れた…もしくは神の罰をラスコーリニコフが受けられるようになった演出だったりするのかな。
最後に光の中囚人たちが運んできた木材も十字になっていましたね……✨
全体的に、ドストエフスキーらしさ溢れる舞台だったと思います。
あとはポルフィーリーがとても演技が良かった。長台詞をローテンションハイテンション織り交ぜつつ走り回りつつ話すところは小説のページが浮かぶようだった。あと慣れてらっしゃる印象で、アドリブも多く何度も笑わせられた。
マッチで火をつけては消しつけては消しと素早くするシーンがあったの、あれ器用だな〜。
心配になるくらいラスコーリニコフが一切喋らずポルフィーリーだけが話す場面…たぶん10分くらいも、全く沈黙が無いんですよね。すごいなぁ。
その最後にラスコーリニコフの手を使ってシーツを畳むシーンはじわじわきた。ほぼ棒立ちのラスコーリニコフ(一応客人)を使って綺麗ーに畳んだ後さも自然にくしゃりと落としてたので会場に笑いが起きていた。
ラズミーヒンもビジュアル含めぴったりイメージ通り。気が良くて明快で世話焼きで、結構単純で熱い男。
彼の愉快さは、ヘビーな舞台の癒しでしたね。
パーティだと銀の三角帽被って騒いでたり、ドゥーニャにわかりやすく惚れたり。
本でも大概世話焼きだったけど、こちらもそう。ラスコーリニコフをベッドにドウドウと押し戻したり、倒れたラスコーリニコフをベッドで膝枕して頭がしがししたり。
スヴィドリガイロフも良かった。特に言うことがないくらいに、妙な只者でなさを感じさせる雰囲気も、喋り方も、怪しさも、完璧に再現。
愛されないと知って絶望してからの、狡猾さももう必要とないとばかりに静かに終わりに向かって行くくだりがとても綺麗でした。ソーニャを救う彼は悪人には見えなかったし、雨の中傘をさした人の中を通り抜けて行く場面も暗く美しい。
彼は本当にドゥーニャを愛してたのだろうな。
とても幻想的なシーンが上手な舞台だったので、欲を言うなら彼と少女のシーンも見たかった…!
個人的に好きなゴッドファーザーや91daysでドン役で出られてた方なので、生で観られたの嬉しかったなぁ。彼らと比べて今回はドスが抜けて砕けた口調になっていてまた印象が違ったけど、大物の悪役が似合いますね。
逆にイメージが違ったのはソーニャ。本では弱々しく神がかり的な印象が強かったけど、舞台は力強くしっかりした子の印象。けれど小柄で、柔らかそうで色素の薄い髪の容姿が、守ってあげたくなるようだった。
彼女が序盤必死に神に祈るシーンは健気で壊れそうで、でも信仰を強く感じて鳥肌。
母さんと妹が、アリョーナとリザヴェータと同じキャストなのは皮肉だな。早く退場するので現実的な都合なのだろうけど。
どこかで本当にラスコーリニコフが殺したかったのは母だという説を見たので少し勘ぐってしまう。
ドゥーニャは原作通りの気が強い美人で格好良かったですね✨銃を構えた姿が美しく、スヴィドリガイロフの言うこともわかるな。
人間関係やキャラクター像、作中に出てくる台詞や思想、全部がつまった大満足の舞台でした✨
最後に会場となった舞台について。
想像していたより広く綺麗な場所でした。
予定が読めず後から追加した立ち見席は、中二階の後方右手側だったけれど、舞台の右端のほんの少し以外はよく見えるので概ね満足。
立ち見席については、足は疲れるので体力はいるかも。それが平気ならお得だと思います。
表情の演技も良かったのでオペラグラスは持って行って正解だった。
最後に、舞台観て「罪と罰」が気になった方におすすめしたい作品
ちょっと気になるけど本は難しそう…という方には上3つを。
上二つは舞台を日本に変えたドラマと漫画。キャラクター、ストーリー、テーマ、どれも概ね同じで、エンタメっぽさも強く読みやすいです。
ソーニャが舞台のように強く、あとスヴィドリガイロフがめっちゃ格好いい。
3つ目は一冊完結の漫画。綺麗な絵で早く罪と罰を知ることができます。ラスコーリニコフがとてもイケメンで目の保養。
最後が原作!数ある訳のうち、個人的にはこれが一番読みやすいと思いました。本好きな方はぜひ。