stormy97’s diary

あわよくば人に勧めたい、作品の紹介と感想

虐殺器官考

伊藤計劃の小説、またその映像化作品の『虐殺器官』について、考えたことと、調べていて見つけたことの中で面白かった事を書き留めました。

内容を知っている方向け。

自分用のメモを兼ねているので読みづらかったらごめんなさい。

 
罪と罰』と虐殺器官

罪と罰を名前しか知らなかったころ、虐殺器官のテーマを一言で表すなら「罪と罰」みたいだなと思っていました。
読んだ今、あながち無関係でもない気がしている。関係がありそうだと思ったのは以下の部分。

(間接的な意味での)母殺しの物語:  罪と罰の主人公ラスコーリニコフは、母に必要以上に期待をかけられており、大義を成すことで母を超える必要があったと言われている。本当に乗り換えるべき存在として、主人公の過激な行動の裏にいるのは、両作共に母である。

 

反省しない主人公: ラスコーリニコフは最終的に改心するのだが、最後まで、した事については反省していない。
追い詰められた先で好きな子に絆されて、あんたに許してもらえるならなんだってするよ!的に罰を受け入れたように私には見える。

これは罪を実感できずに罰を求めるクラヴィスや、彼のルツィアを追うときの様子に似ていないかな。

それに、「罪の自覚のない者には罰も意味をなさない。『罪の意識』の欠落した人間を救済することはできるのか」がテーマであると、罪と罰についてレビューしてる人もいた。

 

またヒロインのソーニャもクラヴィスにとってのルツィアと同じように、主人公と似た罪を共有している。主人公らはそんな彼女らによってこそ救われるのだ。

 

あとは思いつきだけど、自分の目的のために人を殺せてしまうようなクラヴィスラスコーリニコフも、貧しい者に自分も苦しい身で施しをしたり、お婆さんを労ったり、普段他人には親切なのですよね。

 

 

人には虐殺器官は備わっている?

・心理学の、人には他者を攻撃する心が備わっているのかの実験では、無作為に選んだ人からなる2つの集団を用意し、自集団内でのギブアンドテイクが期待できない状況を作ると、自集団への協力も他集団への攻撃も消えるらしい。

なので、自集団への「協力」と他集団への「攻撃」は表裏一体ではなく、それぞれ別の原理から応じたものであり、他集団への攻撃に見えていたものは、あくまで自集団を優先させた結果という説があるそう。※1

 

 

映画でジョンポールがクラヴィスに仕込んだ文法の効果は?

映画で仕込んだものは、小説とはちょっと違うらしいと噂で聞きました。何だったのか気になります。

ルツィアに惚れさせる文法だという説。そう考えて観ると、なるほどというシーンが多いです。

ラヴィスは私服に無頓着そうなので、キマっていたデート服は、職務で選んだのか否か、ここの答えによって変わりそうです…笑

 

 

虐殺器官の元ネタなど

プライベートライアン」 :戦争映画。こちらの方がすごく詳しく書いてらっしゃったので引用させて頂きます。↓

https://twitter.com/maripaperbook/status/855401499559510016?s=21

 

アメリカンスナイパー」:戦争もので「あるある」とされる登場人物の心理変化を、説得力ある画として実感させられる映画。

大尉たちが、休暇に自宅でプライベートライアンを観ていることの意味がわかった。虐殺器官の参考に観るのに適していると思う。

 

「ホテルルワンダ」:作中で述べられていたルワンダの虐殺が描かれている映画。

 

カチンの森」:未視聴。同じく作中であった虐殺がテーマだそう。

 

「cure」: 虐殺の文法を思い起こさせる内容のサスペンス。カメラワークも心なしか似ているような。

 

『戦争広告代理店』: マネジメントした小国を戦争で勝たせたジムハーフという広告屋の話。彼がジョンポールのモデルと思われる。

 

ミーム』:  遺伝する文化の話。感染力の強い言葉についてなどが語られている。これは面白かった!

 

『発狂した宇宙 』: 未読。「世界は発狂することに決めたらしい」という独特の言い方と何か関係あるのかな?と気になっている。

 

 

気になったところメモ

・人口が増えすぎたときに食糧難への適応(環境適応)として発生した虐殺の文法って、一定周期で流行る疫病のようだ。どちらも感染る。

・クラヴィスが見て、あそこに地獄があるんだな、と考えた(※小説)男のスキンヘッドには、頭蓋骨のホログラフィーが映されていた。
映画版について、これの画と、アレックスが撃たれた時の頭蓋の画は似ている気がする。
ならばアレックスの死は地獄が壊される事とかの暗喩?

・パターンを見つけるのは進化学や生態学の仕事だ」という話を聞いて、めっちゃジョンポールっぽいな!と思った
彼の研究は言語学だけど、進化や統計に関する話もたくさん出てきてるんだな虐殺器官

・亡くした仲間と、クラヴィスがその後ウイリアムズと見る映画が結びつくらしいと聞いた。アーサー王とリーランドが対応してるということなので、アレックスとプライベートライアンもなにか関係があるのかな。

・「救命艇の倫理」…格差を無くすように動くと先進国ごと沈没するから、先進国だけが生き残れる戦略を」ってこと
これすごくジョンポールっぽいと思う。
この考え方に向かうのが危惧されてたのが、ブッシュ政権だという。確かこの本が書かれたのもその頃だ…!
・クラヴィスがルーシャスたちに捕らえられたとき、原作と違いルツィアはその場にいなかった
→映画では正体を偽って傷つけたことへの贖罪願望は発生しない。

 

あと単に個人的に気になったところ
・戦争映画で、建物の屋上に紐が張ってあって、そこに布が沢山かかってるのって目隠し用?
確か映画ハーモニーの、ヴァシロフが撃たれたシーンでもも出てきた。
・蝶が何箇所にも出てくる
・ルツィアって綴り的に別の言語ではルーシィになる名前?
・僕は無神論者だ、はクラヴィスのセリフだったのか。納得。

 

 

ここまで読んでくださりありがとうございました。

何かあったらまた書き足します。

 

 

※1『あなたの知らない心理学』