『硝子戸の中』の感想と「月が綺麗ですね」の解釈
紹介されていた抜粋が非常に美しかったので読んだ。
もっと言うと、好きな関係性の二人に重なって見えたので読んだ。笑
『夢十夜』の第一夜と似ているとの紹介で、勝手に小説と思って読んでいたが、随筆だったらしい。
でも確かに女性が出てくる章なんかは静謐でミステリアスでそっくりだ。
こういう話をもっと読んでいたいな。
その際たるものが「七」の章。
抜粋もここであり、硝子戸の中で最も好きだ。
自分の過去を書いてほしいという、傷ついた女が出てくる。彼女はとても語り手には救えない傷を負っているように見える。
その傷の内容は語られないが、彼女の愛した第三者によるものではないか、という人の解釈を聞いた。
彼女が投げかける質問がとても良い。
「もし先生が小説を御書きになる場合には、その女の始末をどうなさいますか」
私は返答に窮した。
「女の死ぬ方がいいと御思いになりますか、それとも生きているように御書きになりますか」
その後女を見送る時に、月夜の中二人で歩いて彼女が先生といられて光栄だ、といったことを言う。
そこで先生が返す言葉が
「そんなら死なずに生きていらっしゃい」
これこそさっきの問いの答えではないだろうか。いいなぁ。答えとしても、自分への情を感じた時に望むこととしても。
そして私は
女がこの言葉をどう解釈したか知らない
のだ。ここまで素晴らしい。
個人的には女はいずれ死ぬ気でいたならば、先生の言葉でそれを変える気はなさそうに思える。
ちなみにここが「月が綺麗ですね」の元ネタだという説があるらしい。
恋の関係にある二人の話と思っていたが、先生と彼女のような親しくはないが尊敬や同情のある二人の話だとするとこれまた胸熱だ。
「月が綺麗ですね(愛している)」へのme tooが「私死んでもいいわ」だというが、このシーンを思うなら、「私死んでもいいわ(愛している)」は、「月がー」を言った人に向けたものですらなく、「結末は『生きる』にするべきか『死ぬ』にするべきか」→「生きていらっしゃい」の言葉への反論、
それほど、彼女が悩む原因となった第三者やその思い出を「愛している」ということにならないか。
とここまで考えが飛躍した。
人の感情や著者の心を動かした出来事が書かれているはずなのに、どれも淡々として静かだ。
それは女性が出てくる章ではより顕著な気がする。
聞いたところによると、これ(男が多弁でなくはっきりせず女はミステリアス)が「エロティシズム」の特徴らしい?
ミステリアスな女は大好きだ。月、夜、病んだ女性、アールヌーボー的な女性像…アールヌーボー的な女性は猫(=隠れた美?)を好むらしい笑…これが漱石の得意なものだそうで、それなら好みに刺さる訳である。笑
あとは、タイトルのように著者が硝子戸の中から外を眺める情景が静謐で美しい。
文体が綺麗で、また5ページ程度の短い章の組み合わせなので読みやすく、数時間で読了。
彼の作品を読んだのは二作目だったが、またこの人の作品を読んでみたいと思った。